2014年8月1日金曜日

いきなりのサオ話

今回は、釣りが趣味の父の話をします。
 一日おきに川に行くほどの釣り好きですから、通っているうちに顔見知りが増え、釣り仲間の輪が広がっていきます。
体調が芳しくなかったり、所用で釣りに行けないときは、お誘いの電話もかかってくるようです。
 しかし、父も若いとは言えない年齢ですから、悲しい出来事に直面することもあります。
数人は、足腰が弱くなり釣りを引退。
 一人は釣り中に心臓発作が起こり、父の目の前で死亡。
 救急車が来るまで必死に心臓マッサージをしたらしいですが、間に合わなかったようです。
 釣り仲間をこのような形で失うのは辛いものですが、亡くなった方も、大好きな釣りの最中にお迎えが来て本望だったのかもしれません。
ところで、少し前に不思議なことが起こったと話してくれました。
 とっぷりと日も暮れ、釣り場を片付けていたときのことです。
「これ、やる。」
父の隣で一日中釣り糸を垂れていた男から、立派なカーボン製の釣竿とケースを手渡されました。
 その釣り場では初めて見かける初老の男だったそうですが、いきなり釣竿を頂戴するような義理もないので遠慮していたら、父の胸にその釣竿を押しつけて去って行ったそうです。
「金の斧、銀の斧の妖精みたいな話だね」と言うと、爺さんだったけどなと父は笑っていましたが、不思議なこともあるものです。
 それ以来、その老人は一度も釣り場に姿を見せていないということです。
思うに、その老人は何らかの理由で釣り納めに来ていて、隣で楽しそうに釣りをする父なら釣竿を大切にしてくれそうだと考えたのでしょう。
 いくら最後の日であっても、見ず知らずの者に物をやるという発想がない人が多い中で、こういうことがあるというのは幸運の一期一会といえますね。
その老人が幽霊だったとか、仙人だったとかいうことは、まずありえないでしょう。
 現に、その釣竿は消えるどころか、いまも父の手の中で大活躍していますから。